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オフチャルカ(コーカシアン・シェパード・ドッグ、セントラル・アジアン・シェパード・ドッグ)の輸入、販売

 Hermitage Dogs






トピックス


Volkodav(ボルコダフ)について興味深い論文がありますので、ロシア語から和訳したものを掲載します。

かなりの長文ですが、カフカスの地理的条件を考えながら読んで頂ければ、オフチャルカという犬種がいかにして人間社会に溶け込んできたか、またこの犬種の持つ本来の役割とは何なのかを知る事ができます。

原文は
http://pyat-gor.narod.ru/eks.htm、長文ですので和訳は必要と思われる部分のみを訳出しています。




 北カフカスの探索 「見捨てられた犬たち」


1998-1999年に北カフカスで探索が行われ、私たちはクラスノダ−ルとスタブロポリの両地方、そしてカラチャイ・チェルケス共和国とカバルディノ・バイカル、北オセチア-アラニア、ダゲスタンの各共和国で各地域に生息するオフチャルカの視察と調査を行った。

北カフカス地方は大変広大で、いくつかの欧州諸国と同じ面積を持ち、地理的に様々な地形に富んでいる。山々が連なり、草地や半分砂漠のような場所もあり、また広大な草原もある。気候も砂漠のような気候から、厳しい大陸性の気候まで様々で、この場所に予測では現在45千頭以上の土着のオフチャルカが生息していると見積もられている。多様な自然環境のために、この地に生息している犬は、ある程度の相違がある。しかしながら、疑いなくこれらの犬たちは一つの犬種に属し、その役割や起源も同じであり、よく似た肉体的、行動的特徴を持ち、それはしっかりと受け継がれている。この犬たちは何世紀にも渡り、家畜や家屋を、強力な捕食者や家畜泥棒から守るため、人々が選択し繁殖させてきたのである。

現地に生息するカフカスのオフチャルカ、あるいはもっと人々の間で受け入れられており、さらにぴったりと合うのは「Kavkazsky Volkodav(ボルコダフ)」という呼び名である。体高が高く、ほとんどの個体は毛が短く、大雑把にいえば屈強な骨格を持ち、驚くべき大きさで、体の幅は広く筋肉が浮き上がり、力が強く自信に満ちており、恐れることを知らない。生まれつき自分のテリトリーを守る本能を持ち合わせ、それを守り抜くことについては他に変えがたい行動力を見せてくれるのである。

ボルコダフには屈強な健康と肉体的に強靭な力、心理的な強さ、動揺することのない精神状態と、大変我慢強く、質素で、最小限度の餌と水があればどんな天候であれ長時間精力的に仕事をこなす能力が自然に備わっている。大変注意深く、明確な判断力を持ち、本来備わっている長所を利用してよく発達した知性を持ち、自ら決断する能力もある。その振る舞いは縛られること無く、落ち着いており、これらの犬を欺いたり、無理やり命令に順応させるのは不可能である。危険が迫った状況に陥った際には、守るべきテリトリーから侵入者を追い払うため、主人の命令を待たずに自ら攻撃を行う。その危険な状態がさらに進行していった時に、状況はますます厳しくなり、残酷とさえいえるようなことになるかもしれないが、その際は自らの命はさしおいて、主人とその所有物のためにその命を捧げることになる。自分のテリトリーから出てしまえば、人を狙うことは無く、従順で社会的に危険は無く、限りない忠誠心と愛情を持ち、主人やその家族に完全に服従するが、他人には警戒心と不信感をもち、強力な捕食者には攻撃的に対応する。

これらの犬が発育するには比較的長い時間がかかる。ボルコダフの子犬はショータイプのオフチャルカの子犬にくらべ、発育がゆっくりとしており、体重の増加するペースも時間がかかる。1年半、時には2年で成犬になるが、子犬のときは可愛らしく、また遊び好きなのが行動面での特徴といえるだろう。この犬たちの成長が終るには3年半から4年かかるが、ここまでに群れの中での上下関係がはっきりとしてくる。

何年もかけて自然と人間はボルコダフの外面的な風貌を磨き上げ、もっとも理にかなった部分のみを残して内面的な世界をつくり上げた。大きく力強い頭部は、強力なあごを備え、捕食者を咬み止めることが出来る。また体は強靭で、発達した筋肉組織や手足、さらにがっちりした靭帯を持ち、長時間起伏の多い土地を歩き続けることができる。また深く広い胸腔は息をする事に不自由なく、粗く短い体毛はその下に密生した柔毛を備え、野外で眠るときでもずぶ濡れになることはない。ボルコダフの圧倒的多数は、体毛が粗く比較的短めで、体中同じ位の長さであり、汚れや植物の棘から身を守り冬に凍てつくことはない。また四肢に余計な傷が出来、体温が下がるのを見事に防ぎ、季節により犬の風貌が変わることも無いのである。

しかしこれらの犬の選別の基準となるのは、この犬種の重要な長所であり偉大な部分ともいうべき元来兼ね備えた精神的な力である。捕食者との戦いに耐え、外傷を受けてもその痛みに打ち勝ち、餌が無くて気候条件が過酷であっても我慢することが出来る本来の特質に比べると、いかなる肉体的な資質や外見的な美しさも無意味である。

現在ボルコダフにはいくつかのタイプがあり、北オセチアとカバルディノ・バイカルの犬は多くの点でよく似ており、ダゲスタン共和国とカラチャイ・チェルケス共和国の犬は少し異なっている。それは、これらの地域の地図を見てみれば多くのことが分かってくる。北オセチアとカバルディノ・バイカルは、グルジア国境との距離の長さや同じ道路、また山岳地帯の峠や放牧場などの影響で、グルジアに近いタイプの犬を他の地域より多く見かける。これらの犬は力が強く、頭部が熊に似ており、毛の長さは中くらいの個体である。ダゲスタンは中央アジアに近く、カスピ海に面した低地で、この地では犬たちは毛が短く、頬骨はあまり発達しておらず、口唇が長く、後ろ足も真っ直ぐしており、脚がストレートで動きも自由な短めの速歩をとる犬が多い。ダゲスタンでも山間部に行けば、起伏の激しい場所を移動するために強力な心臓を備え、四肢がよく発達しており、体毛が長い犬たちが住んでいる。北カフカスで生息している犬たちはお互いによく似ているが、小さな例外はカラチャイ・チェルケス共和国の犬だけである。この原因は地理的なものではなく何よりも政治的なもので、スターリン時代にここの人々は弾圧され、カザフスタンに強制移住させられた。その後自らの土地に戻り、自分たちの犬を繁殖させたのは明らかで、その犬とはセントラルアジアンオフチャルカとの雑種である。最も均一で望ましい表現型とされているのは北オセチアの犬である。

ボルコダフの成犬の体重は、牡で50-70kg、雌で35-50kgである。性差は顕著で牡は雌に比べ大きく勇ましい。体高は牡で68-80cm、雌で60-74cmである。ボルコダフの寿命は10-15年でその仕事の苛酷さに左右される。「老い」や「衰え」が何であるかを理解することなく、波乱に満ちた生活が一生続き、牡は自ら死をたぐり寄せる。また雌は大体8-9歳まで子犬を産むことができる。老年期になると動きは少々ゆっくりとしたものになるが、必要な状況に陥れば、かつてのように気質をあらわにし、素早い反応と力そして何者も恐れない勇気をみせてくれる。毛色は白色から暗褐色まで様々だが、明るい色の体毛の場合は大きな色素沈着があるのは注目に値する。羊飼いは狼爪を切除することはしない、何故なら彼らによれば、太古からの血統を受け継ぐ証明となるものだからだ。狼爪は各肢に2つずつもついていることがあるが、羊飼いにとっては不便になるようなものではない。彼らは常に歯の大きさと犬の顎の強さにまず注意をおくが、それは捕食者をなるべく長く咬み止めておくのには「好都合」なものである。ボルコダフにとって、強力な咬む力は一生の間必要で、自らの仕事の質が下がることなく、また外敵の侵入に対する反撃を成功させるために不可欠なものである。外敵との戦いは胸で打つことから始まり脚で相手を打ち倒す。そのためにボルコダフの脚は筋肉質で広く前に突き出すことができるのである。それと同時に稲妻のような速さで首の近くを顎で噛み付き、捕食者(狼)の短剣のように鋭い歯を防ぎながら、噛み付いたまま数回頭を激しく振り回す。弱く小さな獣の場合、こうすることで椎骨が破壊され、力の強さと体躯が同等の捕食者(狼)は、防御や逃亡をせざるを得なくなる。現在に至るまで羊飼いはボルコダフを選ぶ際に咬む強さを重視し、歯のかみ合わせは考慮しない。確かに歯の並びが犬の一生で重要な役割を果たすべきでなく、アンダーショットかシザーズバイトかに大きな意味は無い。若い犬はシザーズバイトであることがほとんどだが、時間がたつとそれはレベルバイトになったりアンダーショットにさえなったりする。ここまで書いて、この犬種が咬みあわせについてまだしっかりと確立されたものになっていないと考えるのは間違いである。この犬たちは何百年の間、羊の繁殖が行われてきた間同じように存在してきており、何世紀にもわたり犬の風貌はほとんど変わらずにいる。我々の課題は人々や自然が作り上げてきたものをそのまま受け入れるということなのである。

全般的に指摘しておきたいのは、この犬たちは高低差のある場所でも平らな場所でも、特に心臓に負担をかけずに、軽快で弾力のある速歩を見せるということだ。ボルコダフは毎日20km歩くのは普通で、大きな群れを追い立てる際には2倍、3倍の運動量になる。どんな年齢であれ自分の主人が代わる事を問題なく受け入れるということが、この犬を利用する人たちにとって重要な点である。今ではこの性質を広く利用して、羊の放牧場から違う放牧場へと犬たちは場所を変えており、特に問題も起こっていない。

このように今日ロシアの北カフカスではボルコダフの大きなグループがあり、犬種としてのスタンダードを受け入れる条件は十分といえる。もしショータイプのオフチャルカと比較して分析すれば、これもまた色々なタイプがあるが、毛の長さのほかに次のような特徴があるといえよう。つまり、ボルコダフはスカル(頭蓋骨)がより丸みを帯びており、耳の位置が低く、もっとがっしりとしており目が少しばかり真っ直ぐしている。マズルはより短めで、鼻までスクエアな形であり深みもある。マズルとスカルの比率は大体13くらいで、下あごは目立って発達している。ボルコダフは体の幅が広く、大きく深い胸腔やよく発達した浮助骨を持ち、後肢は幅が広く、飛節は直線的で急に飛び跳ねたりするのに適しており、尾は断尾されていることが多い。

ショータイプのオフチャルカとの比較に対し、この犬とセントラルアジアンオフチャルカがどう違うかということについては、短い体毛という共通点以外に、外見上の違いがある。頭部に関しては、ボルコダフはよりがっしりとしており、額からマズルまでが短く、直線的で滑らかではない。また目がより斜視で、密生した瞼はしっかりと閉じ、頬骨はより発達しており眼窩は窪んでおらずマズルはより短めで下唇がだらりと垂れていることはない。この犬たちは肘より下に胸腔が位置し、少し肢が長いセントラルアジアンに比較するとずんぐりとした印象を受ける。それ以外にも個体により様々であるが、冷淡なセントラルアジアンよりボルコダフは興奮しやすく、人間に対しても敵意をみせる傾向がある。さらによりはっきりと分かる違いの一つは、ボルコダフにはマズルが黒いものが多いが、これはセントラルアジアンオフチャルカにはまずこのような個体を見ることは現実的にほとんど無い。

ボルコダフにはさらにもう一つ重要な問題がある。

まず間違いなく、この犬たちはアジアが原産であるということは広く論じられている。現在まで、いや今は以前にも増して、中央アジアの国々から繁殖のための良血統の材料を得る難しさがあるため、他の地域ではボルコダフについて色々な繁殖方法が勘案され、セントラルアジアンオフチャルカのような犬種の育成がなされている。そのような混血は有害としかいいようがないは明らかだ。これらの犬種の繁殖には細心の配慮をもって行われるべきで、セントラルアジアンオフチャルカとの違いを最大限強調するべきである。

現在のロシアには逆説的な状況がおきている。つまりオフチャルカという一つのスタンダードの範囲の中で、2つの全く異なる犬がいるということである。一方は純血で全く血が混ざることはなく、もう一方は色々な方向に発展していったのであり、現地に生息するオフチャルカは完全に作業犬に属する。何世紀にも渡り、最も苛酷な条件の下で選択され、揺るがない精神性を兼ね備え、ロシアのどんな気候にも順応することができる。また現在でもその存在意義が失われることなどありえず、見返りを求めることなど全くなく、運命の成り行きで死ぬことすら受け入れなければならない重要な仕事に携っているのである。

これらの犬の外見が様々で広く分布していることから、専門家の大部分が犬種のスタンダードについて論じようとしても状況は複雑である。ドッグショーでは出陳することができず、なかなか衆目が一致する犬種のスタンダードをつくることができていない。ボルコダフをショーに出す上で大きな障害は、毛の長さでリングを分けることが出来ない点にある。仮にスタンダードが体毛の長さが色々存在する点を受け入れていれば、リングを分けることが出来ただろう。しかしながら、残念なことにドッグショーでは今は外国の犬種ばかり見かけるようになってしまった。同じリングでスムースコートとロングコートのコリーを審査したり、ショートコートとロングコートのセントバーナードを一緒に審査したり、全部の違うコートのダックスを審査しようと誰も思わない。私たちは完全にロシアのテリトリーで生息し、固有種でもある犬種に、細心の注意や尊敬を払うことなく接している。毛の短い犬たちは、それがどんなによい犬であっても、櫛ですかされ、よく手入れをされた犬たちの間では出陳することなく退場するのが一番良いのは明らかだ。そのような状況では、私たちはさらなる発展の可能性を秘め、多様な内面性を持つ強力な本当の作業犬をショーから追い出してしまっており、差別的な待遇をしているのではないだろうか。

ロシアは豊かであるが故、無駄に資源を浪費している傾向がある。今世紀初め非常によい犬を私たちは決定的に失ってしまい、すでに現在では多くのキルギスタンやタジキスタンのオフチャルカが国内に生息している。我々はイタリア人ではないが、実際のところ、ほとんど消えかけていた大変古い犬種で、ナポリタン・マスティフによく似ているものの違いは明白で、その役割と精神的な特徴がボルコダフに大変よく似ているカネ・コルソが、50匹の牡と雌から、文字通りこの10年くらいの間に復活してきているのを目にしている。

もし、ばかげた北カフカスでの軍事的紛争や強制移住、またこの種に対する配慮が足りないために、完全に土着のオフチャルカがいなくなってしまうとすれば、大変な悲劇だ。これは自然な遺伝的特徴を持ち合わせ、ロシアの新種になることが可能な犬種である。世界最大の国土を誇るにもかかわらず、ロシアは自らの固有種にたいする量的、方法論的なアプローチが他の国々に比べても劣っている。

全ての国々は自国の固有種に対し熱心に保存運動を行っている。国連では「プラネット・アース」という固有種に対する特別なプログラムがあり、1992年にはわが国も「生物多様性条約」に署名している。現地に生息している種はまさにこの生物多様性に含まれるものであり、それは人工的な種の発展のため多くの可能性を与えてくれるからである。何世紀にもわたり創られたものが、まさに今現在手遅れになり、また二度と戻らないなどということにならないように周囲を見渡し、熟慮しなければならないのである。

北カフカスの少数で山岳地帯にすむ人々は、この地域に生息する犬たちに大きな愛情を注いできた。これはどこにいってもよく似ており、犬たちも何世紀にも渡り人々のために働いてきた。カフカスではこの犬たちをまるで自分達の宝として接し、注意深く選択を行い、もっとも優良で賞賛すべきボルコダフの血統を継承してきた。

何世紀にも渡ったものを中断することなく、何世代にもわたり自然が創造してきた結果として創られたものを失わないためには、ボルコダフは正しく種としては別のものとして分離されることが必要で、独自のスタンダードとショーにおけるリングを持つ別種とすることが欠かせない。また他種との交配は禁じるべきで、これを優先して発展していくことを目指す必要がある。

そのときにロシアは初めて自分のため、また世界に対し、王冠の上にもう一つの真珠の飾りを加えることが出来る。素晴らしく心が奪われるような美しさで、力強く人々に愛情を注ぎ、仕事の要求に完全に応えること出来る作業犬ができるのである。

これらの犬たちは何百年も人々の傍に寄り添ってきた。これからもずっとそうであると信じたい。

                                      
(訳責:中庭 聡)